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6月トチノキ

6月トチノキ

トチノキは春・夏・秋・冬と1年を通じて際立つ特徴を持っている。
季節を問わず一目でその木がトチノキとわかる目印があるということです。
冬は枝に刻印された葉痕である。葉痕は葉が落ちた後に、枝に残る葉の根元の痕である。トチノキの葉痕は扁平な卵状逆三角形で、下方の2辺に沿って小葉の数と同じ維管束の痕が小さな突起となって並んでいる。
維管束はいわば植物の血管のようなもので、いろいろな物質の輸送路だが、その断面の痕も枝に残るのである。 
 冬場、葉がなくともその猿の顔にも似た葉痕を確認することで、その木がトチノキであることがわかるのはありがたい

春から秋は 手のひら状にふつう9つに裂け、長さが50センチにもなる大きな対生する葉をもつ木はそうざらにはない。日本にはトチノキを除いて皆無だろう。しかも葉をつくるパーツである小葉は狭い楕円状だが、それには中脈の両側にほぼ平行に走る20から30対もの側脈が刻まれている

初夏は 5~6月に樹冠の枝先に出る大きな円錐花序も瞠目に値する。それに着く花も一目でトチノキのものとわかる(写真3)。高さ20~30㎝ぐらい、4つある白色の花弁は基部中央が淡い紅色になり、その姿が座った小猿の後姿のようにもみえる。

秋は秋になれば、これも一目でトチノキのものとわかる、直径が3~5センチもあり、表面がでこぼこした果実が樹下を埋めるように落ちる。この果実の厚い殻は3裂して、ふつうは中にただ1つの種子を生じる。種子は栗に似るも、上下に押しつぶされた饅頭型で、表面はつやつやして光沢もあるが、およそ下半分は黄褐色で、光沢もない。

では、トチノキの旬の季節を選ぶとするといつがいいだろう。
それはトチノキの名前の由来がハチミツノキから付けられたので、蜂蜜の採れる、花の時期としたい。
トチミツが勝れた蜂蜜であるところから、昔から、トチノキが「蜜蜂の木」と呼ばれて大事にされた。
もっとも、古代人がこのような科学的な観察から、トチノキを「蜂蜜の木」と呼んだわけではない。蜜蜂が採取してくるハチミツの素晴らしい色や香りや味から、素直な気持ちで「蜜蜂の木」と呼んだのだろう。
その「ミツハチノキ」がいくつかの転訛を重ねたのち「トチノキ」へ昇華し、それが樹名へと転化したと考えられる

① ミツハチノキ    mitufati   ⇒ ミの母音i 脱落 
② ムツハチノキ    mtufati   ⇒ ミの子音変化m→n  ハの子音f脱落
③  ンツアチノキ    ntuati  ⇒ 促音ンの脱落、二重母音の変化ua→o
④   トチノキ      toti

トチノキ蜂蜜はニセアカシア蜂蜜より少し色が濃く特有の風味がある。蜂が蜜をあつめる期間はトチノキの場合6月ごろなので他のものよりやや遅いという特徴もあり、雨が多く、気温が高いと流蜜が多い。花は午後2時ごろに最大の蜜を分泌するので、養蜂家はその時期、時間帯をめがけて採蜜します。
しかしトチノキは、花をつけるようになるのに30~40年ほどもかかり、蜜源植物のなかでは大器晩成型。

またミツハチとトチノキとの共生関係も考えられる。
マルハナバチは、まずトチノキの花序の下部に到着すると、順次、上へ上へと移動しながら、花弁の付け根にある蜜線を吸蜜し、花序の上部に達すると他の花に向けて飛び立つ――といった行動パターンを採るマルハナバチが全体の87%を占める。残りの13%は、花序の中部の花に到着し、上部の花へ移動し、そこから他の花へと飛び去る。これを逆に言うと、花序の上部に到着し、下に移動して下部の花から飛び立ってゆく、マルハナバチは全然いないのである。
先に述べたように、トチノキの花序の下部には、ほとんどの両性花が集まり、上部に雄花が分布する。また、トチノキは、雄花も両性花も開花後3日間、すなわち黄色の期間で、花蜜の分泌と、花粉の生産をやめる。さらに、両性花の柱頭で受粉が可能となるのは、この柱頭が8mm前後に直立してくる、開花後4日~8日の5日間である。
このような状態にあるトチノキの花のもとに、蜜蜂がやってくるのだ。その花序の下部から上部へ移動する蜜蜂の行動は、トチノキに自家受粉を回避し、他家受粉を保証するのだ。蜜蜂に色の識別能力があるかどうかは不明である。蜜蜂には、われわれの知りえない不思議な能力が備わっているとしか思えない。

 トチノキの用途でとくに重要なものは食用と用材としてである。
 食用としては、秋に大量になる種子は保存もきき、採取した澱粉は冬場の食料としても重要であった。しかし、種子にはサポニンやアロインなどの物質を含んでいて苦味が強く、そのままでは食べることはできない。
 これを食べるにはそれなりの方法が必要で、古くから東北地方で行われていたのは数日間、採取した澱粉を流水に晒し、その後木灰を混ぜ熱湯を注ぎ、水洗いした後、セイロで蒸す、さらに米を混ぜて、ついて餅とする方法であった。また、種子を1ヶ月ほど水に漬けてから皮を取り、灰汁で煮てから米を混ぜ、蒸してつく方法も行われた。
飢饉に見舞われることもなくなった今、トチノキの種子の食用としての価値は間食やお土産用のトチ餅にほぼ限定されてしまった感がある。

トチノキといえばトチの実でトチの実といえばトチ餅という連想ができるほど有名ですが、トチ餅を食べたことがありますか?
黄~茶色がかっていて柔らかく、風味がありなかなかおいしいものです。
さて、トチ餅は含まれる成分のせいか数日経っても普通の餅のように堅くならず柔らかいままので、冬山に入って獲物を獲るマタギの食料にも重宝されていました。

 他方、用材としてのトチノキの需要は大きい。その材は緻密でかつ軟らかく、加工が容易である。耐久力には劣るものの削った面の光沢に品があり、板目には微細な髄線の切り口が横に直線状に規則的に並び美しい。大は床柱や磨き床板、天井板から、小は違い棚や腰板などに利用された。
 また、材は均質でもあるため、ロクロ物や刳り物にも向いている。とくに現在は直径が50センチを超えるような丸太材はトチノキを除いて容易には手に入らないこともあり、捏ね鉢や盆づくりに重用されている。

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