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4月クスノキ

4月クスノキ

クスノキは私にとって一番身近な木であったかもしれない。
生まれ育った家の傍に俗称クスノキ神社と呼ばれるお宮さんがある。
八王子神社御旅所と言い、小さな神社だが境内に大きなクスノキがあり、御神体となっている。樹齢約1300年 樹高25.0M 幹回り11.0Mの巨木である。
小さい頃は正月や夏祭り等よくお参りしたものであった。
でも、大きなクスノキは目に入ったものの強い印象は残っていない。玉楠大明神

ところでクスノキが注目される季節は何月であろう。
クスノキが一番目立つ、目につく時期は新芽が薄赤色や黄緑色に展開する芽吹きの時だと思う。
季語に「山笑う」という言葉があるがクスノキの芽ぶきの様子を現わしていると思うほど若葉のクスノキは美しい。
常緑樹ですが葉の寿命は1年間で、春に新葉がでる頃に前年の葉は落ちる。
大量でほとんどの葉っぱが入れ替わり、新しい葉っぱは淡いグラデーションに彩られる。
しかし、大量の葉っぱの落葉は、落葉清掃が大変な作業になる。
クスノキの葉には、堆肥化や腐葉土化に必要な微生物の増殖を抑制する物質、あるいは他の植物の生育に有害な物質が含まれているそうなので、堆肥の材料にもならない。

クスノキの名前の由来
クスノキ(楠、樟)はクスノキ科ニッケイ属の常緑高木です。
クスノキかどうか確かめるには、その葉をもんで臭いをかぐとよい。
昔、樟脳を採取してきた木がクスノキである。すがすがしい臭い(香り)がする。
もっとも、クスノキ科の植物はいろいろな精油成分を含むため、他のクスノキ科の木ということもある。
全体に特異な芳香を持つことから、「臭し(くすし)」が「クス」になった。
古代、クスノキの樟脳の強い臭気には、邪霊・邪気をはらう呪力があると信じられた。
このことから、「クサ(臭)の木」の名を得たが、のち、より強烈なクソ(屎・糞)ノキと変えた。しかし、このクソのイメージが嫌われるところとなり、これをクスノキ(O-U母音交替)と改めた。

となりのトトロとクスノキ
となりのトトロの作中のクスノキ(通称・大クス)は、まるで人格を持った脇役のようである。天を覆わんばかりの巨大樹で、根本の空洞にはトトロたちの棲み家がある。その幹には注連縄が結ばれ、水天宮が置かれている。「自然と人間との関わり」をやんわりと示す場所であり、ストーリィが大きく展開する場所でもある。
環境庁の全国巨樹・巨木林調査は幹周りでランク付けされる。その調査結果では、何と上位十一位中、十本までがクスノキなのである。どれくらい巨大かと言えば、第一位の「蒲生の大樟(鹿児島県)」は、幹周りが何と二四・二メートルもある。(ちなみに、縄文杉は一六・四メートルで十二位)
塚森のクスノキは、まさに一本で「森」である。
岡山県倉敷市の椿神社の大クスは推定樹齢約420年、樹高約25m、幹回り6.3mの木であるが遠景はまさに森である。
クスノキは、各地の神社仏閣の周辺に植樹された。
クスノキは、ハッカのようなスーッとする特有のニオイを有しており、この木があると虫も寄ってこなくなるため、厄除けの意味から神社によく植えられたともいわれている。
伐られても枝がすぐに伸び、長寿でもあることから、子供の守護神としてクスを祀る風習もあったとも言う。
大クスに棲むトトロは人間の側から見れば子供の守護神と見えなくもない。

クスノキは、古来より日本人にとって、最も大きく、最も特別な樹だったのである。クスは「人の手の及ばない何かが棲んでいる」という神聖さや畏怖を感じつつ、それでいて護ってくれるような親近感が沸くという、まことに希な樹のようだ。

古(いにしえ)より日本では高い木の上に神が降り立ってくると考えられていた(巨樹信仰)。
神が宿る木はやがて霊木として崇められ、天照大神(アマテラスオオミカミ)の子(スサノオがアマテラスの勾玉から生んだ男神)にも、熊野久須毘命・熊野樟日命・熊野豫樟日命(クマノクスビノミコト)という名前が付いているように、クスノキには不思議なチカラがあるとされていたことでしょう。
 さらに、クスノキで作った天磐豫樟船(あまのいわくすぶね)という船には、伊弉諾(イザナキ)・伊邪那美(イザナミ)の産んだ蛭子の神を乗せています。『古事記』の仁徳天皇の段には、兎寸河の西に大きな樹があり、朝日が昇るとその木の陰が淡路島まで伸び、夕日の沈む頃には高安山まで影が伸びたと云われているくらい大きな木の話が載っています。その木で枯野(からぬ)という名の船を作り、それがまた速く水上を動いたとあります。その木はクスノキではないかと云われています。また、『播磨國風土記』にもクスノキから船を作り、それがとても速く進むことが出来た船だったので速鳥(はやとり)という名称で呼ばれたとあります。古代の遺跡からはクスノキの丸木舟が出土しています。

厳島神社の鳥居
耐水性が強いため、海中に立つ厳島神社の鳥居はクスノキを柱にしている。
この柱は樹齢500~600年の自然木で高さ16m(奈良の大仏と同じ高さ)重量約60t、長径2m、8代目で135年経過しているそうです。次代のクスノキの柱はもう手に入りにくくなり、継承が危ぶまれています。

仏像
日本の主要な仏像700点について、その樹種を調べたところ、飛鳥時代の仏像のほとんどがクスノキ製であったという。法隆寺の百済観音や中宮寺の弥勒菩薩を始めとして、法輪寺の虚空蔵菩薩など、どれもクスノキで造られている。
これは、文化的な範であった中国(隋)の仏像が、当時は芳香のある白檀で作られていたことに影響を受けたとされている。日本には白檀が無いので同じく芳香のあるクスノキが使われたのではないかと思われる。クスノキは大木になるので材を得やすく、柔らかく加工がしやすかったことも彫像をするには都合が良かったのではないだろうか。
また、日本では古くからクスノキを神木として崇めていたからだ、と考えられる。
日本は八百万(やおよろず)の神を信じる国であり、宗教的には、他の宗教に対し極めて寛大な国である。仏も他国の神である。その神である「仏の像」には、神木であるクスノキが最もふさわしい木だと考えたのかもしれない。

大材が出ることと材の保存性が高いこと、さらに木理が雄壮なことから、昔から社寺建築の構 築材に用いられてきた。また和風建築の内装材としても用途が広い。
床柱、床板、天井板、棚板、 板戸の鏡板のようなものがあり、ことに建具材としては彫刻した欄間がよく知られ、富山県の井波が その産地として有名である。
木理の様子から洋風建築の壁板、ドアーのような内装材にもよく適して いる。
家具・器具材としての用途も多様である。
古くは箪笥(たんす)・長持のような収納家具から 始まり、割合小さい棺までに用いられるのは材に含んでいる樟脳によって防虫の役割をしている意味が大きい。
またテーブル、指物、棚物の洋家具にも使われる。
最近は、以上のような用途には、美しい木理または杢のものを薄いつき板にし、これを台板にはりつけて用いることが多い。
そのほか仏 檀、木魚、各種の彫刻、楽器、盆・木鉢・椀のようなくりもの、寄木細工および木象嵌(もく ぞうがん)、額縁、木型、玩具などいろいろのものがあり、船舶・車両の内装材などもある。
木魚ではクスノキ製のものはまろやかにこもった音を発するので最上とされている。
船舶では古代に丸木舟としてよく使われ、その後和船の用材としても主なものの一つであった。

樟脳
樟脳とは、クスノキの枝葉を蒸留して得られる無色透明の固体のことで、防虫剤や医薬品等に使用された。
材や葉にはともに約1%の精油を含み、そのチップを水蒸気蒸留すると樟脳油が得られる。樟脳油には約50~60%の樟脳の他に、多くの精油を含む。純粋の樟脳は白い結晶物質になる。
「樟」の字は、「クスノキ」と読み、樟脳は本来クスノキを原料としたことがうかがえる。天然樟脳は松脂から採れるテレピン油を原料とした化学合成品と区別する呼び名です。
また、においがきつい昔ながらの防虫剤として、他の薬品と間違われる場合が多いようですが天然品はもとより合成品も市場にあまり出回っていません。
クスノキの英語名はcamphor treeで、樟脳の英名(カンフル)です。
注射剤の形の樟脳は、強い強心作用を示すために呼吸、血管、心臓の興奮薬として用いられていた。
現在は外用医薬品「カンフル」として血行促進や鎮痛剤として使われている。
昔からダメになりかけた物事を復活させるための処方を「カンフル剤を打つ」などと言われていた。

クスノキは、暖かい地域にしか生息しないといい、世界的に見ても、中国の揚子江以南から台湾、韓国、そして、日本の西南部一帯に分布する。
そのため、クスノキから作られる樟脳は、かつてはたばこや塩と同様、日本専売公社によって専売されていた。
樟脳がなければ、日本はこんなに栄えていなかったともいわれている。
江戸時代に樟脳は、金・銀に次ぐ輸出品だった。
クスノキの自生林に恵まれていた薩摩藩や土佐藩では、樟脳を売ることで、軍費を稼いでいたとか。
また、樟脳はセルロイド(合成樹脂)やフィルムの原料でもあったが、合成樟脳が生産されるようになると、天然樟脳を作る生産者はどんどん減少していった。

「山笑う」
山の草木が一斉に芽吹く、山笑う季節になりました。
桜が過ぎ、緑が日に日に濃くなる、5月の連休との間の時期をさします。
こころが少し浮き浮きする気分になります。
「山笑う」とは中国北宋時代(960~1127)の山水画家郭煕(かくき)の「山水訓」の「春山淡治(たんや)して笑ふが如く、夏山は蒼翠(そうすい)にして滴るが如し、秋山は明浄にして粧ふが如く、冬山は惨淡として眠るが如し」からの引用で木々の芽ぶき、新緑の頃をうたう俳句の季語です。
正岡子規の句に「故郷やどちらを見ても山笑う」というのが有名です。
山笑うというのはいったいどのような春の山の様子を表わすのでしょうか。
長い冬を越えて、ようやく到来した春。冬の間、見渡す限り無彩色だった山の景色が、春の陽光のもとに淡い様々な色に一斉に染まりだす。
山は日に日に白銀色、萌黄色、黄緑色、薄緑色とパステルカラーに変化していく。
それが山笑うと表現される風景です。

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