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10月秋の七草

10月秋の七草

秋の野に咲きたる花を指折(およびお)り かき数(かず)ふれば七種(ななくさ)の花
萩(はぎ)の花(はな)尾花(おばな)葛花(くずばな)瞿(なで)麦(しこ)の花 女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝貌(あさがお)の花

これらは万葉の歌人、山上憶良(やまのうえのおくら)(660?~733?)の和歌で万葉集一五三七・八 巻八、秋の野の花を詠める二首で、秋の七草の由来です。

朝貌(あさがお)の花は「朝顔」「木槿」「桔梗」「昼顔」等諸説がありますが、一般的には「桔梗」を指します。

春の七草は1月7日の七草粥として有名ですが花としては地味です。
秋の七草は美しく、気品に満ち溢れた花が選ばれています。
これら七つの花はただ美しいというだけでなく、衣食住すべてにわたって、古くから日本人の生活に深くかかわってきた植物です。
春の七草が食べられる野草であるのに対して、秋の七草は眺めて楽しむ山野草であり、貴重な薬草でもあります。

ハギ
万葉の人々が、小さなハギの花に繊細な美を感じたことは「万葉集」に142首、最も多く詠まれたことでわかります。
秋を代表する花なので、草冠に秋、すなわち「萩」という和漢字が作られました。
ハギの仲間は、日本各地の日当たりのよい山野の至る所に生える落葉低木でミヤギノハギ、ヤマハギ、筑紫ハギなどハギで総称されます。
山火事の跡などに大群落を作ります。かつては野焼きをして「萩山」を作り、村で共同管理をしていました。

タンパク質が豊富で栄養価の高い枝葉は、刈り取って家畜の餌に、葉はお茶の代用に、強靭な樹皮は縄にと広く利用され、可憐な花を見るために庭にも植えられました。
紅紫色の花の枝条が秋風に揺れる風情はなにか心が洗われる思いがします。
薬効として、めまい、頭痛、咳止め、のぼせ、蕎麦中毒にハギ茶が効くと言われます。

ススキ
秋風に靡く(なび)ススキの穂波はさびしくも壮観です。
十五夜のお月見に無くてはならないススキは、日本各地の草原に生える多年草です。
でも最近この風流な行事を楽しんでいるのでしょうか。
日本人は遠い昔からススキの風情を愛し、秋の七草に選びました。

かつてススキは、屋根葺き材料として不可欠でした。刈って屋根に葺いたので「刈り屋根」から「カヤ」とも言われました。
村中でカヤ場を管理し、晩秋に刈って乾燥した後、村民総出で作業をしました。
平均的な家の屋根の葺き替えには、4トントラック10台分のカヤとまる2日がかりで行ったそうです。
しかし、日本の原風景であるカヤ葺きの屋根の家も、珍しくなりました。
牛や馬の秣(まぐさ)としても重宝されました。人々とのつき合いの深い草でした。

語源は「すくすく立つ木(草)」、または神楽に用いる鳴りもの用の木、すなわち「鈴の木」の意味。また、花穂が獣の尾のように見えるので、別名「尾花」と呼ばれます。

また、八月から九月にかけてススキの穂の出る頃、その根元に形の面白い可憐なピンクの花が見られます。高さ10~20㎝、竿の長いパイプに似ています。これがススキの根に寄生するナンバンギセルで、古名は「思い草」、その姿形から名づけられました。

薬草としてのススキは根を利尿、風邪、おできの時に煎服します。
ナンバンギセルは不老長寿の薬と言われ、強壮、強精、不妊症、身体虚弱、不老長寿に効くと言われます。

クズ
生育が良すぎて厄介者になることもあるクズのものすごさは目を見張るものがあります。秋の七草の中にあって林業者に悪態を吐かれるクズですが古くから日本人の生活と深く結び付いてきた有用植物です。
太い根から採れるでん粉が葛粉で、和菓子や日本料理に使われます。
また、発汗や解熱作用があり、これを主成分とした葛根湯は、風邪薬として良く知られています。

クズという名前は、奈良県吉野郡の国栖という地名に由来し、この地方はクズの根から採る葛粉でんぷんの名産地で、有名な吉野葛の名で、村人がこのでん粉を売り歩いたことから、いつの間にか地名が植物名に変わったと言われています。
本物の葛粉はこれであって、クズ湯やクズ餅に、ごま豆腐もこの葛粉で作ったものでないと本物とはいえない。

また、クズの繊維は、大変強くて麻糸に似た風合いがあり、これで織った葛布は軽くて丈夫だったので、上代は庶民の衣服に、江戸時代は武士の裃、夏服、道中合羽、乗馬用の袴などに、又、近代ではふすま紙として使われました。
葉は、タンパク質をはじめ栄養価に富むので、家畜の飼料として利用されました。

クズの葉は、大きな三小葉からなり、日射量によって開いたり閉じたりする睡眠運動をします。良く晴れた日中は、小葉は垂直にたち、白い裏面が少しの風にもそよいで波打ち、涼しげに見えます。それで「裏見草」とも呼ばれます。そして、立秋の声を聞くと、あちこちの葛の葉かげに隠れるようにひっそり赤紫色の花を咲かせます。

ナデシコ
薄紅色の可憐な花を咲かせるナデシコは、日本各地の山野で良く見かける多年草で、川原にも良く生えるので、カワラナデシコとも呼ばれます。

枕草子には「草の花はナデシコ、唐のはさらなり、やまとも、めでたし。」とあり、平安時代には中国渡来の唐ナデシコ(セキチク)が愛でられていたことがわかります。
このカラナデシコに対して、日本のものをヤマトナデシコ(大和撫子)といい、その楚々としたつつましやかな風情から、日本の女性の美称ともなりました。

語源は(撫でし子)で、可憐な花の様子から「撫でいつくしむかわいい子」の意味と言われています。

種を「瞿麦子」(くばくし)といい。漢方では肝硬変、心臓病、腎臓病の浮腫(むくみ)にまた、非細菌性の尿道炎、膀胱炎、月経不順に消炎や利尿薬として用います。
通経作用、陣痛促進作用があるので妊婦には絶対に用いてはいけません。

オミナエシ
秋草の茂みの中に風に揺れて鮮やかな黄金色に咲くオミナエシは人目を引いて可憐に見えます。オミナエシは日本各地の日当たりのよい山地に自生する多年草で、鮮やかな黄色の小花は粟粒にたとえられ、アワバナとかアワゴメバナと言った方言もあります。

オミナエシの語源は、花を粟飯に見立てて、女人が食べるものとして女飯(おんなめし)、それがオミナメシからオミナエシに転化した。また、花が美しいので女の美しさを減らすのでオミナヘシという説もあります。
近縁のオトコエシに比べて繊細な風情をもつので、女性にたとえられ、一般的には「女郎花」の字が当てられました。

オミナエシの漢名は「黄花龍芽」、オトコエシは「白花敗醬」と言います。敗醬とは腐った醬油や味噌の意味で、両種とも生け花に用いると、生けた水から悪臭を放つので、茶席の花としては敬遠されます。

オミナエシもオトコエシも漢方では、解毒、消炎、浄血、消炎、排膿に効があるとされています。

フジバカマ
フジバカマは中国原産の帰化植物で、古く薬用としてわが国に渡来しました。
大切に栽培されていたものが逃げだして、関東以西の本州、四国、九州の川沿いや山麓に野生化したと言われています。
しかし、今ではほとんど自生は見られず、絶滅危惧種のひとつとなっています。

フジバカマは全草を乾かすと桜餅の皮の臭い、すなわちクマリンの芳香を放ち、中国では古くから香草として親しまれてきた植物です。

漢名は「蘭」「蘭草」「香水蘭」「香草」などといい、衣服に付けたり、頭髪を洗ったり、風呂に入れたりして、その高尚な香りを楽しみました。
でも、山上憶良は秋の七草に中国渡来のフジバカマを選んだのでしょうか。

派手できらびやかさはないが、秋の訪れを告げる花で山野に自生するヒヨドリバナとよく似ています。
フジバカマも糖尿病や月経不順、婦人病に薬効があると言われます。

キキョウ
秋の七草の最後に詠まれた「朝貌(あさがお)の花」というのは、古来からキキョウ、ヒルガオ、アサガオ、ムクゲなどの説があり、議論が交わされてきました。万等集に「朝貌(あさがお)は朝露負(お)ひて咲くといへど 夕影にこそ咲きまさりけれ」と詠まれており、昼間や夕方にしぼんでしまうアサガオやムクゲの姿には見られないからです。また、朝顔はこの時代には渡来していないと言われ、「秋の野に咲きたる花…」とあるので花木であるムクゲも疑問が着きます。
朝露を帯びて咲いた風情、それが夕方の光の中でいっそう映えて美しくなるということから、キキョウが秋の七草のふさわしいと選ばれたのが一般の通説です。

キキョウは日本から中国北部、ウスリー地方にかけての日当たりのよい山地の草原に生える多年草です。
漢名「桔梗(きちこう)」は根が肥大して大きくまっすぐに地中に伸びる様から名付けられ、和名はその桔梗(きちこう)がキキョウに転訛したものといわれています。

わが国では、古典的な風情が漂い、気品に満ちた花は古くから人々に愛され、文学や多くの美術品、着物の図柄、家紋、生け花などに好んで用いられました。

しかし、中国では観賞よりもむしろ薬用として重視され、その利用法が漢方として我が国に伝わったのです。
キキョウは秋の花の象徴で秋の草原に咲くコバルト色の花は秋空をバックに清々しく鮮やかです。
自生のものはきわめて少なくなりましたが、切り花や鉢物、花壇用に栽培されています。

キキョウの薬効成分はサポニン、プラティコディンなどがあり、鎮咳去痰のほか鎮静、鎮痛、解熱、消炎作用、抗ヒスタミン、抗アレルギー、血管拡張、降圧作用もあると言われ、重要な薬草として知られています。

秋の七草は日本人の生活に深く密着してきたのもですが、特別なにかをする行事がなく、意外に覚えにくく、すぐに忘れてしまうことも多いと思われます。

秋の七草の代表的な覚え方は五・七・五・七・七のリズムに合わせて、歯切れ良く口ずさむこと。

組み合わせは様々ですが、一番多いのが次の順番です。
【ハギ・キキョウ/クズ・フジバカマ/オミナエシ/オバナ・ナデシコ/秋の七草】

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