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6月ユリ

6月ユリ

昭和50年代、梅雨の頃になると室生寺周辺の雑木林の林床に咲くササユリを採りに行った。その頃は林床もよく手入れがされており、ササユリの咲く姿は遠くからもよく判り、たやすく手に入れることができた。
近年、ササユリが見られないとよく言われる。確かに咲いているのを見ることは少なく、ましてや摘んで持ち帰る気持ちになるほどの群生には久しくお目にかかっていない。
ササユリの減少は、自然が壊れていることの証というよりは里山の雑木林が管理されなくなったからと思う。

ササユリは種子で繁殖する。種子から芽生えたササユリは1枚あるいは数枚の根生葉を出すだけで、茎はない。
したがって、幼苗の時期には地表面にある程度の光が当たっている場所に侵入する必要がある。
開花できるまでに生長するのに数年がかかるとすれば、少なくとも数年間は地面にまで光が当たる状態が継続されないと、生長して花を咲かせることができないことになる。
薪炭林として定期的な伐採が行われたり、柴木を刈り取る作業はササユリの生育には都合の良い環境であったであろう。森林利用の減少と形態の変化がササユリの減少になっているに違いない。
ササユリを長期間栽培することは結構難しい。球根を採取してきた次の年は開花するのだが、やがて姿を消してしまう。同じ場所で栽培すると病気になって消滅するらしい。新鮮な土地に定着し、数年間で花を咲かせて移動するのが本来の姿なのであろう。

ユリの花と言えば
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という美人を形容する言葉がある。

芍薬は立った状態で見るのが一番きれいで、
牡丹は座った状態で見るのが一番、
そして、百合は歩きながら見るのが一番きれいという説。

芍薬は真っ直ぐの茎に花を咲かせるので美人の立ち姿、
牡丹は横向きの枝から花を咲かせるので座った美人、
百合は風を受けて揺れる姿が美人の歩く様子という説。

また、元々は生薬の用い方をたとえたものという説。
「立てば芍薬」の”立てば”はイライラとし気のたっている女性を意味し、芍薬により改善されます。芍薬の根を使うのですが、痛みを取ったり、筋肉のこわばりを取ったりします。
「座れば牡丹」の”座れば”はペタンと座ってばかりいるような女性を意味し、それは「お血(おけつ)」(お=やまいだれ+於)が原因となっていることもあります。
 「お血」とは、漢方で症状を表現するのに用いられる言葉のひとつで、腹部に血液が滞った状態を意味します。
「お血」は牡丹の根の皮の部分(牡丹皮・ぼたんぴ)により改善されます。
「歩く姿は百合の花」は百合の花のようにナヨナヨとして歩いている様子を表現しており、心身症のような状態を意味します。その場合には百合の球根を用います。
このように、それぞれの症状に合った生薬を用いると健康になれます。

百合(びゃくごう)
 ユリ科の百合(多種類が用いられている)の鱗茎の鱗片を乾燥させたものです。消炎、鎮咳、利尿、鎮静薬として用いられます。中国の後漢時代の中医学者である張仲景は、百合の精神安定薬的な効用を示しました。「百合知母湯」、「百合地黄湯」などに配合されます。

ヤサシイエンゲイからユリのページを引用

北半球の亜熱帯~亜寒帯におよそ96種が分布する球根植物で、日本にはその中の15種が自生します。そのうち6~7種は日本のみに分布する固有種です。自生地は山野の草地や里山の疎林の傾斜地、海岸の岩場や砂地など水はけがよくて適度に日射しのある場所です。
花の姿や性質は種によってまちまちでひと言では説明できませんが、野生種は花姿で4系統に、園芸品種は元となった野生種の違いで8系統に分けられます。
基本的に秋に球根を植え付けると初夏~夏に花を咲かせます。花壇や庭植えの他、鉢植えや切り花に利用されます。野生種は美しさの中にも風情がありますし、園芸品種は野生種にはない花色やゴージャスさ、かわいらしさがあり、楽しみ方の多い植物です。
日本でも球根が広く流通して親しまれているのは、スカシユリとも呼ばれるアジアティック・ハイブリット、カサブランカを代表とするオリエンタル・ハイブリッド、テッポウユリやそれらが元となったロンギフローラム・ハイブリッドなどです(詳しくは分類(園芸品種)を参考にしてください)。

基本は6枚の花びらをもちます。正確に言うと外側の3枚はがくが色づいたもので「外花被(がいかひ)」、内側の3枚が本来の花びらで「内花被(ないかひ)」と呼びます。開花した状態では花びらは同じに見えますが、つぼみの状態から観察すると、外花被が内花被を包んでいたことがよくわかります。花の形は大きく開くもの、下向きに咲き花びらが反り返ってまあるくなるもの、筒状で先端が少し開くもの、上向きでカップ状に咲くものなどいろいろあります。
雄しべと雌しべ
花の中心から1本の雌しべと6本の雄しべを伸ばします。雄しべは長く伸びた花糸とその先端にぶら下がるように付く葯(やく)からなり、葯は花粉を出します。花粉赤褐色~黄色、油分が多くて服などにつくと落ちにくいです。
葉っぱ
葉っぱは細長い笹のような形をしたものが多いです。長さは3cmくらいから20cmまでと種によって違います。1本の茎に付く葉の数も少ないもので10数枚、多いものでは200枚以上付きます。葉っぱと茎の基部にむかごと呼ばれる球根のようなものが付きます。むかごはぽろりと地面に落ちて根を生やして新たな株になります。むかごはできない種もあります。
球根
やや肉厚のりん片が重なり合って1つの球根を形成します。りん片の1枚1枚は葉が栄養や水分を蓄えられるように変化したものです。球根の大きさは種によって大きさや色、形は様々です。球根は外皮をもたずに裸の状態で強い乾燥は苦手です。

球根の下から「下根」、球根から伸びた茎に「上根」と呼ばれる役割の異なる2種類の根を付けます。下根は株を固定させ、上根は水や栄養を吸収します。下根は伸縮する力があり、伸びて縮む時に球根を引っ張って地中を移動する役目もあり、牽引根や収縮根とも呼ばれます。茎が地面を横に伸びて地下茎になる種もあります。上根の付け根には木子と呼ばれる小さな球根を付けます。中には上根を出さない種もあります。

花の姿で主に6系統(亜属)に分類されます。
テッポウユリ亜属(Leucolirion)
主にアジアに多く分布する系統です。筒状の長い花が横向きに咲きます。テッポウユリ、ササユリ、オトメユリ、タカサゴユリ、リーガル・リリー、マドンナ・リリーなどがあります。
ヤマユリ亜属(Archelirion)
日本に自生する系統で、じょうご形の花を横向きに咲かせます。ヤマユリ、サクユリがあります。
スカシユリ亜属(Pseudolilium)
世界に広く分布し、カップ状の花を上向きに咲かせます。ヒメユリ、エゾスカシユリ、ヒメユリなどがあります。
カノコユリ亜属(Martagon)
世界に広く分布し、花は下向きに咲き、花びらは思い切り上に反り返ります。カノコユリ、マルタゴン・リリーなどがあります。
シノマルタゴン亜属(Sinomartagon)
オニユリやヒメユリなど 。
リリオティプス亜属(Liriotypus)
マドンナリリーなど。

ユリは古くから利用されてきた植物ですが、品種改良が盛んに行われるようになったのは19世紀末以降と、その歴史は存外に浅いです。
英国王立協会では改良の元となった野生種の違いで、園芸品種を8グループ(Division1~8)、そこに原種・変種(Division9)を加えて9つに分類しています。 ハイブリッドは「交配」という意味です。
アジアティック・ハイブリッド(Division1)
アジア原産で主にオレンジ色系の花を咲かせるエゾスカシユリ、オニユリ、ヒメユリなどが元となった系統です。園芸ではスカシユリと呼ばれることが多いです。花はカップ状で上向きに咲き、芳香はあっても弱いです。花色はオレンジ、黄色、赤、ピンク、白などがあり、複数の色が入るカラフルな品種もあります。植えっぱなしでも毎年花を咲かせてくれる強健な品種も多く、庭植えにも適しています。
マルタゴン・ハイブリッド(Division2)
マルタゴン・リリーとタケシマユリを掛け合わせて作られた系統です。花は下向きに咲き、花びらは上に反り返って、小振りのまあるい形になります。日本ではあまり馴染みはないです。
キャンディダム・ハイブリッド(Division3)
マドンナ・リリーを中心として、ヨーロッパ原産種(マルタゴン・リリー除く)を掛け合わせた系統です。日本ではほとんど栽培されていません。
アメリカン・ハイブリッド(Division4)
北アメリカ原産種を元とした系統です。花は大輪で下向きに咲き、花びらは大きく反り返ってまあるい形になります。庭植えに適していますが、日本ではほとんど知られていません。
ロンギフローラム・ハイブリッド(Division5)
テッポウユリとタカサゴユリを掛け合わせて改良された系統で、シンテッポウユリ(新鉄砲百合)が広く栽培されています。本来この系統は横向きに花を咲かせますが、それを上向き咲きに改良したライザン(雷山)があります。
トランペット・オーレリアン・ハイブリッド(Division6)
最初の品種がフランスのオーレリアン地方で作られたので、この名前があります。リーガル・リリーやキカノコユリ、アジア産のテッポウユリ系が元となっています。花姿は筒状から大きく開くものまで、品種によって様々です。花色はオレンジ、黄色、ピンク、白などがあります。
オリエンタル・ハイブリッド(Division7)
日本に自生するヤマユリやササユリ、カノコユリを中心として改良された系統です。芳香を放つ大輪の花や筒状の花を咲かすものがあり、花色は白やピンク、紅色などがあります。ゴージャスな雰囲気を持つものが多いです。ものによってはウイルス病に弱くて球根が腐敗しやすいなど、やや栽培しにくい面があります。白花大輪のカサブランカは有名な品種です。

ユリの由来
ユリの語源は諸説あり決定的なものがありません。
・大きな花が風に揺り動く様子から「揺り」
・球根は鱗片が寄り合って(重なり合って)いる、「寄り」が訛ってユリ
などの説があります。
また、古事記(712年)に登場する伊須気余理比売命(いすきよりひめのみこと:神武天皇の后)の「余理」が転訛して「ゆり」になったとも言われています。

百合の由来
現在は「百合」の漢字を当てますが、万葉の頃には「由理」「由利」などの漢字が当てられていました。2~3世紀頃に著された中国の書物に「百合(パイホ)」の記述があり、これ日本に伝わって「ゆり」を表す字として使われるようになったと言われます。百合はたくさんの鱗片が重なり合った様に由来する、とされます。

属名の由来
属名のリリウム(Lilium)はケルト語の「白い」と「花」に由来し、マドンナ・リリーの花姿から来ています。

日本では書物や和歌など文化的なシーンでユリを見ることができますが、実際は食用や薬用が主体の植物だったようです。花を鑑賞するようになったのは近代に入ってからです。
古代
古事記に『神武天皇がユリを摘んでいる娘に惚れて嫁にした』というエピソードがあり、これが日本で最古のユリに関する記述とされます。舞台は奈良の三輪山のふもととされており、分布などを鑑みると、このユリはササユリだとされています。この物語を現在に伝える行事が、奈良県桜井市大神神社のササユリで奈良市率川(いきがわ)神社で行われる三枝祭(さいくさのまつり)で、ゆりまつり、とも呼ばれます。
万葉集(759年)には10首にユリが詠まれています。
中世
ふすま絵などの花鳥画や浮世絵、織物や衣装、工芸品などにユリが描かれるようになります。ただ、あまり花を意識されていなかったからか、ウメやキクに比べると極端に少ないです。
江戸時代
江戸時代になると、花の観賞にも注目されるようになりました。スカシユリの改良が行われるようになり、17世紀末の書物には37種が紹介されています。また、ヤマユリの変種も多く記録されています。ヨーロッパからシーボルトをはじめ植物学者や医者などが派遣されるようになり、ユリを含めた日本の植物がヨーロッパに紹介されるようになり、海外の人たちにも注目されるようになりました。
明治以降
園芸用にヤマユリやカノコユリ球根の輸出が始まり、明治末には重要な輸出品のひとつになりました。その後テッポウユリの球根が輸出の多くを占めるようになりました。テッポウユリはアメリカで特に人気が高かったようです。テッポウユリは当初、山採りされていましたが、質のよいものを選抜してそれを栽培して増やすようになり、色々な品種ができました。しかし、病気やウイルスに弱い面もあり、耐病性があり丈夫な園芸品種が台頭するにつれ、輸出は衰退していきました。
昭和の初め頃に現在でもよく知られるシンテッポウユリが作出され、戦後にはカノコユリの優良品種などが作られました。残念ながら現在は海外におされており、世界各地で品種改良・生産された球根が日本でも広く流通しています。

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