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佐保川の桜

佐保川の桜

私たちは平成25年度奈良県地域貢献サポート基金の補助を受けて、佐保川堤の桜の調査を行いました。
佐保川堤の桜並木は奈良市の隠れた名所です。
延長5km1000本以上の桜が見られる、日本有数の規模の桜の名所といえます。

佐保川の桜

佐保川の桜

しかし、基礎資料 いつ頃植えられたものか どんな桜が植わっているのか 何本あるのか 正確な台帳はないと言われています。
また、残念ながら 桜の生育状況、管理状況も十分とは言えません。
でも、これだけの桜並木は奈良市の観光資源であり、文化財であります。
これらの桜を保護育成し、後世に伝えることの意義は十分あります。
知らなければ守れない。知ってもらえなければ管理予算も付きません。
佐保川の桜をPRするにしても基礎資料は必要と考え、毎木調査を行いました。

1 目的
 奈良市内の隠れた名所、佐保川堤の桜並木は1000本を超し、距離も5キロメートル以上ある。
 JR関西本線(大和路線)と交差する踏切付近には樹齢160年以上といわれる川路桜が5本残っている。
 佐保川の水源は春日原生林、佐保川の「さ」は誉める言葉、「ほ」は大変綺麗という意味で、万葉集にも数多く詠われた由緒ある川である。堤のところどころに歌碑が立てられ、ベンチや日陰棚も設置され、水辺に親しめる奈良市民の憩いの場となっている。
 桜の日常的な管理は奈良市公園緑地課が行っているがこの桜に関する歴史・台帳等の基礎資料はほとんどない。
 この調査はこれらの桜をより美しく保全整備し、後世に伝えていくための基礎データーを作るために行う。

2 方法
(ア) 地図上に桜の木をプロットする。
(イ) プロットした木に番号をつける。
(ウ) 樹高、幹回り、張幅等を測定記録する。
(エ) 樹齢を推測する。(樹勢や幹回りの太さなどから検討)
(オ) 調査木の測定記録を一覧表に整理する。

位置図

調査表

3 佐保川桜並木の歴史と樹齢の推定
 
川路桜はソメイヨシノ長寿日本一

 ソメイヨシノ長寿日本一はwikipediaでは弘前城跡公園の樹齢120年を超えるソメイヨシノが現存する最も古い樹であろうと記述されている。(樹高約9m幹回り4.1m)この桜は明治15年(1882年)に旧藩士菊池楯衛が寄贈したものと言われ、2013年―1882年=131年となり、苗木の樹齢を7年と仮定すると樹齢138年ということになる。弘前城跡公園のソメイヨシノは樹齢100年を越すものが300本以上あり、立派に花を咲かせている。桜の開花時期には250万人の人が訪れ、その管理技術は多くの人から絶賛され、弘前方式と呼ばれている。ただし、その費用は年間約1億円、1本当たり3万8461円である。
 ところが、福島県の桜の名所、開成山公園にも明治の初め安積開拓時に植えられたソメイヨシノがあると言う。この桜は開拓を始めるにあたり地元の富商が組織した「開成社」の人々によって灌漑用のため池の堤防などに植えられた。開成社百年史によれば、開成社は明治6年の結社社則に花木苗木購入を掲げ、明治8年には開墾地周辺に桜苗木の植栽を決定している。
 また、開成山と周辺一帯の桜を「国の名勝及び天然記念物」として申請するための県の調査報告書(昭和7年)には明治11年(1878年)に植栽したとある。
これが正しいとするとこの桜は弘前城跡公園の最も古いとされている桜より4年長寿で植えられて135年、樹齢142年である。
 さて、佐保川桜堤の川路桜であるが江戸時代奈良の名奉行であった川路聖謨(かわじとしあきら)が植えたものとされている。川路聖謨は1801年生まれで下級武士から身を立て、佐渡奉行、普請奉行、奈良奉行、大坂東町奉行、勘定奉行、外国奉行を務めた。1866年3月の江戸城開城の日に割腹、短銃自殺を図って亡くなった。
 奈良奉行を務めたのは1846年1月から約5年半。その間に熱心に取り組んだのが植林植樹。奉行所付属の山が荒れているのを見て植林に踏み切り、その数は50万本にも及んだとされる。
 又、町の人々に呼びかけて、住民運動の形で古都の景観整備を推進、募金や寄付を呼びかけ、東大寺・興福寺を中心に数千本の桜や楓を植樹した。
 佐保川沿いのこの桜もこの時に植えられたものと思われる。
 その経緯を記した石碑「植桜楓之碑」が猿沢池の近くに見られる。
 川路桜が1850年に植樹されたと仮定すると2013-1850=163 植樹苗木を7年生とすると樹齢は170年となり、福島県開成山公園の桜より28年も古く、ソメイヨシノ長寿日本一である。

川路桜

川路桜

近代以降の植樹について

 奈良市公園緑地課の話として記録はないが昭和60年(1985年)前後に植えられたという記事をニュース奈良の声で見つけた。2013-1985=28 苗木を7年生と考えると35年。佐保川の桜の大半の樹齢は約35年と思われる。
 また、同じ記事に奈良土木事務所が1993年に奈良市に桜の管理を依頼した文書に市民の要望を受けた市が同事務所に桜の植栽を要望したと記されているのでこの時期にも植えられたと考える。2013―1993=20 苗木を7年生とすると27年。この時の桜の木の樹齢は27年と考えた。
 佐保川には佐保川小学校の南門に面した所に平成11年10月2日に開校した佐保川「水辺の学校」がある。
 この時の工事で桜並木に石囲いが設けられた。既存の桜の木を囲うように施工したため木の根元が盛り土された。この石囲いの中に1本枯れてしまった桜の切株があった。

桜の切り株

 切り株の年輪を数えてみると25年生と確認できた。枯れた年が2年前とすると今では27年。この木はその時1993年ぐらいに植えられた推定する。
桜は普通1年に約10mm幹が太ると考えられる。幹回りの値÷3.14でおおよその樹齢が推定した。

4 調査結果
 佐保川上流の下長慶橋から下流郡山市境JR橋まで桜の総数は1225本。ソメイヨシノは1029本で全体の84%であった。他にサトザクラ(八重咲・一重咲きを含む)が109本、早咲きの河津桜が27本、しだれ桜が16本、大島桜が10本、山桜が8本、彼岸桜が8本、小彼岸桜、寒緋桜、暖地桜桃が2本、小苗が1本、枯死しているものが10本確認できた。

5 考察
奈良の事務所に長い間勤めていたが佐保川の桜を見るのは初めてであった。佐保川の桜の話も聞いたことはあったと思うが秋篠川とごちゃまぜで理解していなかった。
 初めて、川路桜を見たとき、その姿に圧倒されるというよりは痛々しかった。ヒコバエが空に向かって元気よく伸びていたが、主幹は曲がって伸び、つつみに踏ん張り一生懸命生きているという印象であった。枝枯や腐れも多い。
 弘前城跡公園や開成山公園のソメイヨシノの写真と比べて少し違和感があり、この川路桜がソメイヨシノ長寿日本一と見栄を切るのは少し憚れる(はばか)のかも知れない。
 しかし、堂々と咲き誇る川路桜の花を見ればそれは単なる偏見でしかないとも思える。
科学的手法で樹齢を調べてみたい気はするが・・・・・。
 川路桜の後継樹として植えられている4本の苗木もあるが、川路桜はソメイヨシノであるので川路桜を品種化するのは意味が無く、佐保川つつみのすべての桜が川路桜の後継樹であると考える。
 樹勢について多くの木を○=普通としたが幹に脂の出ている木を多く見かけた。枯れ枝も多い。
 川路桜だけを守るのではなく、佐保川全体の日本でも有数といえる1000本を越す桜並木こそが川路聖謨の精神をつなぐことであり、次の世代へと受けつなげなければならない。

6 これからの課題
 CCA処理支柱の処置
いちばん醜くかったのは、桜の植え付け時にした支柱が桜の木に取りこまれ、そのために株分かれしている木が多くあった。
この状況が見られるということは、これらの桜の管理にいかに関心が無かったということを顕著に現わしていると思える。
この支柱はCCA加工材で毒物が含まれており、川に流出してしまった可能性も高い。また、CCA加工材の処分は毒性のため焼却も埋め立てもできないと言われている。

桜に食い込んだ支柱

桜に食い込んだ支柱

 アレチウリ対策
  2015年10月6日 5か月ぶりに佐保川に行く。
歩いているとクズのような葉の形をしたつる性の植物がみられた。白い小さな花が咲いていてクズではない。この時は河川の外に茂っていたので気には止めなかった。
グリーンアリーナ奈良のゴルフ練習場を過ぎ、右岸沿いに歩くとこの蔓草に覆われたソメイヨシノが多く見られた。
昨年の枯れた蔓は気がつかなかった。いずれにしてもソメイヨシノにとっては厄介なものであることには間違いない。

アレチウリ

アレチウリ

家に帰り、ネットで調べてみるとアレチウリであることが分かった。全国的に広がり、大きな被害や生態系を乱しているということだった。
早急な対策が急がれるが県や市の担当者はどのくらい把握しているのか。

アレチウリは北アメリカ原産の一年草のツル性植物です。
その繁茂により在来の生態系を破壊し、動植物に悪影響を及ぼすとして、平成18年2月に「特定外来生物」に指定されている。
アレチウリは農地や河川敷などに生育し、長いもので10メートル以上に成長し、他の植物に巻きつきながら覆いかぶさり、光をさえぎって枯らしてしまう。
1年草のため、秋には枯れてしまうが、種子を大量に作り、翌年以降に発芽して、同じように繁茂するため、放置すればあたり一面がアレチウリで覆い尽くされる。
土壌処理剤のみの防除は難しく、茎葉処理剤や、結実前の刈り取りといった機械的防除法の併用が必要な難防除雑草である。

10月27日、アレチウリが気になって調査を再開。この日は河川の下草が刈られており、アレチウリも一緒に機械的防除法で処分されたように思えた。しかし、一部低い桜の木に架かっているアレチウリは処分がされず、残っていた。果実(種)も多く確認できた。

 カイガラムシ対策
  佐保川小学校から上流JR踏切の間、ルビロウカイガラムシがびっしり付いていた。

カイガラムシ

カイガラムシ

撮影 2014年4月15日 カイガラムシのたくさんついていた木は開花が遅れていた。
  カイガラムシはなかなか薬剤散布駆除では効果がなく、根絶しにくい害虫である。薬剤は佐保川の水質にも影響を及ぼすと考えるので難しい問題である。

 川路桜ソメイヨシノ長寿日本一の検証
川路桜がソメイヨシノ長寿日本一と検証できれば、川路桜のPRや保護に非常に強い意味を持つと考えるが、実際に幹に穴をあけて年輪を調べることは困難である。行政や地元の保存会の意向にもよると思う。

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